強迫性障害(OCD)と障害年金・はたらくこと

強迫性障害(OCD)は、外からはわかりにくい障害です。
几帳面で、真面目で、責任感が強い——
そんな人ほど、心の中で何度も確認を繰り返しているかもしれません。

「戸締まりしたかな」「手を洗ったかな」
誰にも言えず、頭の中で何度も同じ映像を再生してしまう。
周囲からは“しっかりしている人”に見えるのに、
本人は不安と罪悪感に縛られていく。

一見、困っていないように見える人が、
支援の網からこぼれ落ちてしまう——。

OCDは、そんな制度と現実のすき間を象徴する障害だと感じています。


■OCDとは――どんな症状があるの?

OCDは外からすぐには分かりません。
几帳面で真面目、仕事も丁寧。
そんな周囲の評価から、支援の遅れを招くことがあります。

✔ 手を洗うのが止められない
✔ ドアノブに触れない
✔ 鍵をかけるのに30分かかる
✔ ガスの元栓から離れられない
✔ 病気になることばかり考える
✔ 万引きしそうな気がする
✔ ひき逃げ事故を起こしたと思い込む
✔ 数を数えてばかりいる
✔ トイレの水を何度も流す
✔ 赤インクが血液のようで怖い
✔ 体臭が気になる
✔ 確認がやめられない

「大丈夫」とわかっていても、不安が残り、確認せずにはいられない。
そんな状態が続くのがOCDの特徴です。


■確認がやめられない――安心を求め続ける心のループ

「ドアの鍵、閉めたかな」「ガス、大丈夫かな」——
誰にでもある心配ごとです。
でもOCDでは、その不安が“頭の中の命令”のように強くなり、何度確かめても安心できません。

確かめてもまた戻る。
心がずっと“安心探し”を続けているような状態です。


■強迫観念と強迫行為(Obsessions and Compulsions)

OCDは「強迫観念(Obsessions)」と「強迫行為(Compulsions)」の2つから成り立ちます。

✔ 強迫観念
頭に何度も浮かぶ不安やイメージ。意味がないと分かっていても離れない。
✔ 強迫行為
その不安を打ち消すためにしてしまう行動。手洗い、確認、祈り、数字の反復など。

これが長く続き、日常に支障をきたすようになると「強迫性障害」と診断されます。


■仕事との関係——“強み”と“苦しみ”のあいだ

OCDの人は、仕事で誠実さや丁寧さを発揮します。でも、それが“安心のための確認行為”に変わることがあります。

報告メールを何度も書き直す、上司の言葉を何度も頭で再生する、勤務後に「明日のミスを防ぐために」と資料を繰り返し見直す——。

一見すると良い習慣のようですが、OCDの人にとっては、不安を鎮めるための“儀式”になっています。

「間違っていないか」「漏れがないか」という不安が消えず、早出や残業を繰り返します。
休日も頭の中で仕事を再生してしまい、“安心できるまで働く”生活になっていきます。 

周囲からは“仕事熱心な人”に見えます。
実際はその裏で、何度確認しても安心できず、心をすり減らしているのです。


■周囲からの誤解——仕事ができる人に見える

OCDの人は、期限を守り、報連相も丁寧。
「信頼できる」「几帳面で助かる」と評価されることが多いですが、本人は“安心のための確認”を繰り返しているだけです。

「仕事ができる人」と思われるほど、休むことが怖くなり、沼から抜け出せなくなります。
周囲が「任せておけば安心」と思うほど、その人は“安心できないまま”働き続けてしまうのです。


■制度の狭間にいる人たち

OCDの人は、仕事でも何度も確認を行うため、ミスが少なく、ルールや期限もきちんと守ります。
そのため、本人が「障害がある」と伝えても、周囲からは「支援は必要ないのでは」と見られてしまうことがあります。

しかし実際には、確認や不安への対処に、膨大な時間とエネルギーを費やしています。
頭の中は常に「抜け漏れはないか」「間違っていないか」という思考でいっぱい。
症状が進むと、不安を打ち消すための確認行為に一日の大半が奪われ、何もしていないときでも、不安を打ち消す思考が常に止まりません。

OCDの人は、“気が休まる瞬間がほとんどない”——
そんな状態で日々を過ごしているのです。


■障害年金との関係——神経症は原則対象外という壁

OCDはICD-10で「F42」に分類される神経症性障害です。厚生労働省の『精神の障害に係る等級判定ガイドライン』では次のように示されています。

📖不安障害、強迫性障害、適応障害などの神経症性障害は、原則として障害年金の対象とはならない。ただし、精神病性障害に準ずる状態(現実検討能力の低下、行動の制御困難など)に至っている場合には、例外的に認定の対象とする。

OCDは、うつ病や発達障害と併発しているケースが多く、障害年金の申請でも主傷病をうつ病や発達障害として行う形が一般的です。
この場合、OCDの症状そのものも日常生活や就労に影響していれば、診断書や申立書の中で丁寧に反映されます。

OCD単独での支給は少数ですが、症状が重く判断や行動の制御が難しい場合には支給対象となる例もあります。
いずれの場合も、医師に「どのような場面で困っているか」「仕事や生活で支障が出ている具体的な内容」を伝えることが重要です。
実際の生活の困りごとを丁寧に共有することで、診断書に反映され、支援につながりやすくなります。


■手帳取得・障がい者雇用という選択肢も

OCDは障害年金では支援につながりにくいことがありますが、「精神障害者保健福祉手帳」を取得できる場合があります。
手帳を取得することで、等級に応じて税の減免や公共料金の割引などが受けられ、障がい者雇用枠で働くことも可能です。

手帳は「制限」ではなく、安心して働くための制度です。障害年金とは異なる形で、支援につながる道があります。


■安心して働くための工夫

働くことは、社会とのつながりを保つ大切な手段です。
ただ、OCDのある人は、不安が繰り返し生じやすく、確認をやめられないことで業務に支障が出たり、長く働き続けることが難しくなることもあります。
「普通に見えるのに、実は不安でいっぱい」——
そんな気持ちで毎日を乗り切っている人もいるのではないでしょうか。 

もし、仕事中に確認が止まらない、間違いを極端に恐れて時間がかかると感じたら、それは努力不足ではなく症状の一部です。
自分を責めずに、次のような方法で「確認を減らす練習」や「切り上げのルールづくり」を意識してみてください。

確認の“終わり”を決める
「一度確認したら終わり」「3回まで見直したら完了」など、回数や手順をあらかじめ決めておく。

📌 「まだ不安だからもう一度」ではなく、「ここで終わりにする」と区切ることで、不安との付き合い方を練習できます。
職場で共有できるなら、上司や同僚に「確認は○回までにしています」と伝えておくと理解を得やすくなります。

ダブルチェックを“人と仕組み”に分ける
「全部自分で完璧に確認しないと」というプレッシャーを減らすために、チームで分担する仕組みをつくる。

📌 「自分が作成、他の人が最終確認」「自分がチェック、上司が承認」というように、他の人の視点が入ることで、確認の責任が分散し、「自分一人で抱え込まなくていい」と感じやすくなります。

不安をためこまない工夫をする
定期的に上司や産業医、カウンセラーと「最近の傾向」や「負担の増え方」を共有する。

📌 「確認に時間がかかるようになった」「仕事後も考えが止まらない」など、行動レベルで伝えると理解されやすいです。
状況を客観的に整理するだけでも、不安のループを少し外側から見られるようになります。

こうした工夫は、特別なことではありません。
誰にでもある「安心して働くための工夫」のひとつです。
完璧を目指すより、“確認を終えられる自分”を少しずつ育てていけばよいのです。


■“正しくありたい”気持ちとの付き合い方

OCDの背景には、「正しくありたい」「整っていたい」という思いがあります。その感覚は、本来は仕事や生活を丁寧に支える力です。

「間違えてはいけない」「完璧でなければならない」と思いつめるほど、心は疲れていきます。
確認を繰り返す行動は、不安を落ち着かせようとする自然な反応ですが、続けるうちに不安がかえって強まることもあります。

“完全に整える”よりも、“十分なところで止める”という意識を持つと、少し楽になります。
「終わりのルール」を自分の中に決めておくことで、行動のコントロールを取り戻す練習にもなります。
“正しくありたい”気持ちは、あなたの中にある誠実さの表れです。
その力を「不安を減らすため」ではなく、「日々を安定させるため」に使えたら、OCDとの向き合い方も少しづつ優しく変わっていくはずです。

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